筋トレを題材にした、承認欲求と自己満足の物語というところか。
最高に面白かった。
文章の語り口は非常に軽快でコメディ調で、正直短いページ数なのに結構頻繁に笑えた。
筋トレやってる人なら共感からの笑いもあると思う。
ネタバレ有るよ
主人公はぼんやりとした、女性性に対する「所在無さ」を感じている主人公。
筋トレを趣味にしていたが、ボディビル選手育成を主軸としたジムを開いた女性に勧誘される。
「別の生き物になるよ」という言葉に自分がそれを望んでいる事に気付かされその助成のジムに移籍する。
ボディビルという競技を突き詰めていく中で、「他人にどう観られるか」という競技である事を嫌というほど突きつけられ
今まで女性であるという事に無頓着であった主人公は、美容クリニックに通ったり、髪を伸ばしたり、ハイヒールの歩き方を覚えたりと必死になっていく。
ラスト、ボディビルで何かが吹っ切れた主人公は
結果的に、自分が求めていたものを再確認して現ジムをやめ、元のジムで一人トレーニングの生活に戻るという話。
承認欲求
見られる競技であるということ、他人と競う競技であるということ
ボディビルを通して、筋トレをなんのためにするのかという事に関して主人公が向き合っていくのだけど
コメディ調なので、思いとか苦しいとかそういう表現はない。
ただ淡々と職人気質にこなし続ける姿が、ラストのオチとの結びつきを良くしてくれる。
腕立て伏せの間、私には奇妙な感慨が芽生えた。 多幸感とでも言おうか、私は、自分が幸せだと感じたのである。 気の済むまで、誰にも邪魔されず、自分の体を鍛えられる事。 それだけの時間と、金と、環境と、平和と、健康な身体が私の手中にはあること。 ~~中略~~ これ以上一体私が何を望むのだろう。
アドラーは、子供を褒めちゃいかんと言ったとかって話を聞いたことがある。
褒めると、褒められる事を目的として生きる人間になってしまうのだとか。
お金や承認、色欲は人を狂わさ安い欲求なわけだけど
筋トレにせよ、何にせよ、自分が今までただ好きでやっていたことが
お金や承認等々と結びついた結果、その行動によってもたらされる報酬の方に意識が向いてしまいガチになる。
しかし、
本当はそういう事ではなく。
ただ自分が自分を満足させるためだけに楽しめる事をやったとて、なんら問題ではないのだという事を
人はしばし忘れる。
その事を、この小説は教えてくれているような気がして。
エンタメとしても面白い上に、内容がすごく現代のSNS時代にすごくマッチしているなと感じた。
割りと、こういったメンタル問題に対するバイブルになる気がする。